第三十二話 奇跡よ、起これ!
そろそろ桜も散り始め、新年度を迎えた。
卒業式も終えて、気持ち揺れ動く春の陽気。
そんな日々に、奇跡が起ころうとしている。
「禁煙継続中。」
覚えているだろうか。
ボクは今年の2月3日から禁煙を始め、2ヶ月が過ぎようとしている。どれだけ価格改正が起ころうとどれだけ嫌われようと、30年以上愛煙家としてタバコを嗜んできた。禁煙の理由は、第二十三話『ついにこの日がきた!』にも綴っているが、短めに再度お伝えしておこう。
父の病が発覚し、進行が早く転移を起こしやすい小細胞肺がんが見つかる。半年でステージ4まで進んでおり、腎臓に難病を持ち糖尿病ということも相まって、治療は限られたものしかできないとのこと。そう聞かされたボクができることは、タバコを止めること。何かを我慢したら何かが叶うという安直な考えのもと、禁煙を始めたという経緯がある。これがボクなりの『禁煙お百度参り』。
タバコを吸ってしまったら、父が死んでしまうと自分に暗示をかければ禁煙なんて簡単にできる。ただ、何かあったときはまた喫煙が始まってしまいそうで、このままやめられると言い切るにはまだまだ自信はない。
意志の弱さが露呈してしまう。。。
「禁煙効果。」
とはいうものの、この禁煙で得たものは大きい。
まず、喫煙所を探さなくていいということ。かつてはどこにあるか事前に確認し、事あるごとに行きたくなる欲求を抑える作業からの解放。まだまだある。荷物が減り、ポケットの中が身軽になった。タバコを忘れたときの不安感などもなくなり、いまではタバコに縛られる事なく生活ができる。
体調はというと、あまり変化は見られない。禁煙すると、ご飯が美味しくなるとか寝起きが良くなるとかよく聞くが、残念ながらまったく感じたことはない。あまり期待せずに待つことにする。
そしてもうひとつ、禁煙効果が見られる出来事が起こった。
「奇跡の途中。」
父が抗がん剤治療に入り、トータルで6回のワンセット。
前半の数回は、どの抗がん剤に効果が見られるか試し打ちみたいな治療らしい。1回目、相当苦しいらしくまったく動けない日々が続いた。髪の毛も抜けてきて、まさに壮絶な闘病生活。これをあと5回も続けられないかもしれないと我慢強い父をも弱気にさせる。2回目、最初の数日入院して抗がん剤を投与。あとは自宅で時間を過ごす。少しでも家にいられる時間を作ってもらいたいと、本人と家族の意思で自宅療養を選択。父にべったりなペット(犬)は、さらにべったり離れようとしない。
2回目が落ち着き、先日検査結果を聞きにいった。病院に向かう車中、「もし変化なしでも進行していないということだから御の字ではないか」とボクなりの慰めを口にする。それなりの覚悟で診察室へ。治療前と今のレントゲンを見比べる。な、なんということでしょう。がん細胞が半分になっているというではないか。先生自身も驚いている様子で、これだけ効果が出るのであればこのまま続けていきましょうと太鼓判を押してくれた。
我慢した結果がこれだけ目に見えて出るのであれば、弱気になっていた父も頑張れるはず。同じく『禁煙お百度参り』中のボクも、これだけ効果が出たら続けるしかないでしょう。
奇跡の途中、このまま完治してくれることを心より願うだけだ。
「まとめ。」
まだまだ何が起こるかわからない病状。
一時の喜びでしかないことと重々承知。だけど、希望の光が見えただけ家族全員が救われたような気になる。いつかはお別れをする日がくるのは間違いないのだが、1日でも長く一緒に生きていたいものだ。
『禁煙お百度参り』なんて、あくまで自己満足。わかっちゃいるけど、始めてしまったものは仕方がない。続けよう。
今回は、ちょっと重いけど最近のうれしかったことをコラムにしたみた。
進展があったら、また書こうと思う。